日本庭園の基礎知識 ~代表的な庭園~

5 min

1.はじめに

鹿王院 庭園
©岩本まさき

この記事では日本庭園の基礎知識として、各時代や様式を代表する様々な日本庭園について紹介します。

自然風景を模してデザインされることが特徴の日本庭園ですが、その内容やデザインの意図は各時代や場所によって異なります。
この記事では様々な日本庭園の中から、時代や様式を代表するものを選抜して解説します。庭園ごとの様式や時代ごとの移り変わりについては別記事にて解説していますので、そちらもご参照ください。

2.日本の代表的な庭園

ここからは各地の代表的な日本庭園を抽出して、それぞれ説明します。
各時代ごとの日本庭園のデザインの違いや変遷を意識して庭園を訪問すると、今までとは違う発見もあるのではないでしょうか。

①平城宮跡東院庭園

平城宮跡東院庭園
©岩本まさき

奈良県奈良市の平城宮跡にある庭園です。
平城宮の東側に張り出したエリアから1967年に発掘された遺構を復原した庭園で、それまでは古い文献から想像されるのみであった奈良時代の庭園の様相を明らかにした貴重な遺構です。
奈良時代中期の女性天皇、称徳天皇の時代に整備された御殿と庭園跡と推定され、皇族らによる宴会や儀式の場として使用されたと考えられています。

東西60m、南北60m程の敷地面積を持ち、逆L字型の池を中心に橋を伴った建物や、ゆるやかな勾配で小石を敷き詰めた州浜などからは奈良時代の優美な庭園の様子が感じられます。
またこれらの造園方法からは、後の寝殿造庭園との共通点が多く見られるのも特徴です。

②紫式部公園

紫式部公園
©岩本まさき

福井県越前市にある寝殿造庭園の公園です。
源氏物語の作者として知られ、2024年大河ドラマの主人公でもある紫式部が、生涯で唯一都を離れて生活したのが越前国(現在の福井県)の国府であり、それを記念して昭和時代の末期に寝殿造庭園が作庭されました。
紫式部が生きた平安時代の寝殿造庭園を忠実に再現し、さらに紫式部日記などに見られる舟遊びができる庭園としてデザインされています。

特に池にせり出して建てられている釣殿や、敷地内を遣水が流れる風景からは当時の王朝文化の優雅さを感じることができます。

③浄瑠璃寺 庭園(じょうるりじ ていえん)

浄瑠璃寺

京都府南部の木津川市にある浄土式庭園です。
浄瑠璃寺は平安時代後期に開かれたと伝わっている寺院で、本尊には九体の阿弥陀仏と薬師如来を祀っています。平安時代の建造物と仏像が現存する寺院として貴重であり、本堂や三重塔、九体阿弥陀如来は国宝にも指定されています。

浄瑠璃寺の特徴は、境内全体が浄土式庭園を構成している点にあります。境内の中心に池があり、池の東岸に薬師如来を祀る三重塔、西岸に阿弥陀如来を祀る本堂が配置されています。
この配置は池の東岸を現世として現世の苦しみを除く薬師如来を安置、善行を重ねれば阿弥陀如来のいる西岸の極楽浄土へ導かれるという考えが視覚的に表されており、浄土式庭園の構成が理解しやすく、さらに平安時代当時の建物等が現存していることからも貴重なものといえます。

④東光寺 庭園

山梨県甲府市にある臨済宗寺院に付属する庭園です。
東光寺は南宋出身で、鎌倉時代前期に活躍した禅僧、蘭渓道隆(らんけいどうりゅう)が再興したと伝わる臨済宗寺院で、その後の時代には甲斐武田氏や江戸幕府からの庇護を受けました。

付属している庭園は山の斜面を利用して配置された石組みが特徴で、特に滝の流れを表現した石組みは『登竜門』の故事を再現しながら、滝の上部には石橋状の石組みが見られるなど、水墨画の世界を石組みで表していることが感じられます。

⑤西芳寺 枯山水式庭園(さいほうじかれさんすいしきていえん)

京都府京都市にある臨済宗寺院に付属する枯山水庭園です。
西芳寺は室町時代初期に夢窓疎石によって再興された臨済宗寺院です。池を中心に配置し、苔に覆われた庭園の美しさで一般に知られていますが、普段は非公開のエリアの先には夢窓疎石作庭による最古の枯山水庭園が広がっています。

この枯山水庭園は「最古で最高峰」とも評されるもので、庭園そのものを禅の精神修練の道場とする夢窓疎石の考えが表れていると考えられているほか、その後の枯山水を中心とする日本の庭園文化に大きな影響を与えました。

⑥北畠氏館跡庭園(きたばたけしやかたあとていえん)

北畠氏館跡庭園
三重フォトギャラリー

三重県津市にある武家庭園です。
北畠氏は中世を通して伊勢国(現在の三重県)を中心に活動した公家大名で、戦国時代中期には三重県志摩地域や、奈良県南部にまで跨る広い範囲を領有していました。
同時期には幕府の要職『管領(かんれい)』にあった細川高国の娘が北畠氏に嫁ぐなど、幕府中枢とも強い繋がりを持っていました。

この庭園は管領職を務めた細川高国が自ら作庭したと伝わっており、当時の貴族達から高い評価を受けていた高国の築庭技術を感じることができます。

庭園は池を中心に豊かな石組みが見られることが特徴で、禅宗庭園で見られる様式を取り入れながらも、元々の自然の風景を巧みに活かした素朴で豪快な魅力があります。

⑦阿波国分寺 庭園

徳島県徳島市にある曹洞宗寺院に付属する庭園です。
阿波国分寺は奈良時代の創建後は衰退していた時期も長く、現在の本堂は江戸時代末期に建立されたものです。
庭園については詳細な作庭時期は不明であるものの、安土桃山時代様式の豪快な石組みを見られる庭園として知られています。

この庭園については昭和時代を代表する作庭家の重森三玲が「庭園の石組みは豪華で剛健、技術が傑出しており、日本庭園中の第一級品」と評しており、豪快な石組みの向こうに本殿が屹立する風景は圧巻です。

⑧不審菴 露地(ふしんあん ろじ)

京都府京都市にある茶室に付属する庭園です。
不審菴は茶の湯を大成した千利休が切腹後、三家に別れた千家のひとつ『表千家』の代表的な茶室で、「不審」とは人知を超えた自然の偉大さに感動する心を指しています。
不審菴は代々表千家によって受け継がれ、格式張らない雰囲気から千利休の座敷に対する考え方が今も受け継がれているといわれています。

付属する露地は桃山時代末期の様式をよく残していると考えられており、大きな樹木とその下に茂る低木、そしてその間を縫う自然石の飛び石を歩いて茶室に向かうと、自然と心が落ち着いていく設計が取り入れられています。

⑨栗林公園(りつりんこうえん)

栗林公園
©岩本まさき

香川県高松市にある大名庭園です。
栗林公園は江戸時代初期に高松を治めることになった高松藩主松平家によって1642年から作庭が進められ、1745年に完成した庭園です。庭園の完成以降は明治時代まで藩主家の下屋敷として使用されていました。


大名庭園の中でも最大の広さを持っていることが特徴で、背後の山を背景に、6つの池と13の築山を有し、約1,000本の松をはじめ様々な植栽が織りなす四季折々の景観は「一歩一景」と評されています。
また、日本三名園と比べて「木や石に風雅な趣がある」との評価もみられます。

⑩兼六園

兼六園
©金沢市

石川県金沢市にある大名庭園です。
兼六園は金沢藩主前田家の五代藩主の別荘を起源として1676年に作庭が始められました。
「兼六」という名前は江戸時代中期に幕府の要職『老中』を勤めた松平定信によるもので、宏大・幽邃(ゆうすい)・人力・蒼古(そうこ)・水泉・眺望といった6つの景観を兼ね備えていることから名付けられました。

四季それぞれの趣がありますが、特に雪に備えて行なわれる樹木の雪吊りと「ことじ灯篭
が織りなす風景は金沢の冬の風物詩として親しまれています。

⑪無鄰菴 庭園(むりんあんていえん)

無鄰菴庭園

京都府京都市にある邸宅と日本庭園です。
無鄰菴は明治時代の政治家である山県有朋の別邸で、洋館の2階は日露戦争開戦前の会議に用いられるなど、しばしば当時の政財界の会合の場所となりました。
政治家として知られる山県有朋ですが、一方で煎茶や書、漢詩や和歌、築庭といった多くの趣味を持つ人物としても知られ、特に築庭については新たな邸宅を所有するごとに、自ら現場で指揮を執ったと伝わっています。

中でも無鄰菴庭園は山県有朋の自然趣味が表された庭園とされ、庭園が出来る前から元々ある地形や植物を活かした築庭がされているほか、小規模な州浜や邸宅から隠された園路などの構成から、それまでの日本庭園にあった物語性が排除され、自然風景の再現が重視されていることが感じられます。
これら特徴から、無鄰菴庭園は近代日本庭園のはじまりとも評されることがあります。

⑫東福寺本坊庭園 八相の庭

東福寺本坊庭園
©Tomo.Yun

京都府京都市の臨済宗寺院に付属する庭園です。
東福寺は京都五山の第四位の禅寺として、中近世を通して栄えた歴史を持つ大寺院です。
1881年に旧本尊と共に仏殿や方丈が火事で失われており、その際に庭園も併せて焼失しています。

現在見られる庭園は1939年に近代の造園家である重森三玲によって作庭されたものです。
鎌倉期の質実剛健な風格を基本としながらも、モダンな庭園造りで知られた重森三玲の作風が随所に表されています。

庭園は方丈を取り囲んで広がっており、その中に8つの意匠を盛り込みながら、それら意匠を釈迦の入滅を表す「釈迦八相成道(しゃかはっそうじょうどう)」とかけて名づけられています。
また、庭園に用いられた部材は火災前からあったものを全て廃棄せずに無駄無く使用しており、トイレの礎石だった石で北斗七星が表現されるなど、禅の精神をベースにしながらも斬新な庭となっています。

3.おわりにー庭園を見る際のポイントー

智積院 庭園
©岩本まさき

ここまで各時代・各地の様々な庭園を紹介しました。
日本庭園は作庭された時代や求められた用途等から、美しく見るためのコツも庭園の様式ごとに異なります。

まず鑑賞方法についてですが、禅宗庭園や枯山水などの多くは建物の中から鑑賞することを目的としています。これら座観式庭園の場合身分の高い人物が座る上座方向から庭園を見ることが、より美しく庭園を見るコツといえます。
一方、江戸時代の大名庭園などの庭園の中を回遊する庭園の場合、庭園のどこか一か所の美しさではなく、樹木が作り出す明暗や、庭園内の高低差といった庭園を歩き見る中でうまれる「流れ」や「リズム」のようなものをつかめると良いでしょう。

また、日本や世界の景勝地を庭園内へミニチュア的に表現する「縮景(しゅっけい)」や、庭園付近の山や湖などを庭園の背景として利用する「借景(しゃっけい)」という技法も見られます。
景勝地の近くには美しい日本庭園があることも多いので、旅の中でお立ち寄り先に加えてみるのはいかがでしょうか。

日本庭園の様々な種類や歴史については下記記事で書いていますので、あわせてご参照ください。

関連記事

1 件のコメント