重森三玲庭園美術館を訪れる(京都府京都市)

3 min

1.重森三玲庭園美術館とは

重森三玲庭園美術館
©岩本まさき

この記事で紹介する重森三玲庭園美術館は京都市街の北東部、吉田神社に近い閑静な住宅地の中にある庭園です。

重森三玲は昭和の時代に日本庭園の研究家、芸術家として活躍した人物で、日本各地に数々の名庭園を残しているほか、『日本庭園史図鑑』や『日本庭園史大系』を出版し、それまでに体系化されていなかった庭園史を整えたことで知られています。

重森三玲氏の庭は「モダンな雰囲気」や「迫力のある石組み」が特徴として挙げられ、「東福寺方丈庭園(八相の庭)」や「岸和田城八陣の庭」などからは、既存の枯山水庭園の枠に捉われない魅力を感じることができます。

この「重森三玲庭園美術館」は彼が残した庭園の中でも比較的後期のもので、元々は吉田神社の神官の邸宅だったものを譲り受け、その後庭園や茶室を随時整えていったものです。

主屋や書院といった建物は神官の邸宅だったころから残っている江戸時代の建物で、敷地内には他に重森三玲が自ら設計した2つの茶室、「無字庵」と「好刻庵」も建っています。
それら建物の周りには大きな「書院前庭」や「坪庭」が整備されており、ここでは江戸期の建物と昭和期の茶室・庭園が融合した景色を見ることができます。

2.庭園を歩いて

重森三玲庭園美術館
©岩本まさき

私が重森三玲庭園美術館を訪れたのは、令和5(2023)年の8月の頃でした。久しく京都に訪れておらず、折角京都に行く機会があるならと、事前予約しての訪問でした。

内陸の盆地に位置する京都の夏は厳しいことで知られていますが、その日も風がなくうだるような暑さの日だったことを覚えています。
汗を拭いながら門の前で待っていると、予約時間の少し前に門が開かれ、中へ中へと案内されます。

案内に従い門の前に来ると、門の向こうにはいくつもの大石が屹立しているのが見えます。

庭園の知識が多くない私ですが、それでも「重森三玲氏の庭園はダイナミックな石使いとモダンな雰囲気がある」程度は知っていましたし、いくつかの重森三玲氏作庭の庭園にも訪れていました。

しかし、門から見える狭い敷地の中に阿波青石の大石が並んでいる様子は、事前の想像を超えるダイナミックさがありました。

門をくぐり庭園へ足を踏み入れると、庭園と主屋の間の空間を歩き、主屋の沓脱石の前へと案内されます。
足元には敷石で波型の複雑な汀線が表現されており、ここにも重森三玲庭園らしさが感じられます。

重森三玲庭園美術館
©岩本まさき

汀線から先には白砂が敷かれて海や河を表しており、その向こうには苔と大石による島々の風景が広がっています。
さらに庭園の後ろには様々な種類の背の高い樹木が植わっており、住宅街の中にある庭と思えない静かさと涼やかさが印象として伝わってきます。

庭園の鑑賞には私たち以外に6、7名の方が申し込んでおられ、全員で館長から庭園の説明を受けます。
館長の重森三明氏は重森三玲氏の孫にあたり、ご自身も芸術に携わっておられることから、奥深い解説を聞くことができます。

説明を聞きながらしっかりと庭園を眺めると、大きな阿波青石の石のひとつひとつの配置に違和感はなく、「三尊石」や「舟石」といった従来の枯山水の庭園にみられる石の配置がされていることにも気付きます。

重森三玲氏の庭園を説明するとき、私などはつい「モダンな庭」といった説明に終始してしまうのですが、それはあくまで表面的なもので、三玲氏の作られる庭には従来の枯山水や日本庭園に対するリスペクトがあるのだと感じられました。

3.庭園の見どころ

重森三玲庭園美術館
©岩本まさき

重森三玲庭園美術館の見どころとしては、まずは大石の迫力が挙げられます。
庭に足を踏み入れた瞬間に感じる迫力をぜひ感じてみてください。

使用されている石そのものも注目すべき点で、庭園内に多用されている青石は徳島県や和歌山県など、中央構造線の南側で多く産出します。
「阿波国分寺庭園」や「粉河寺庭園」などが青石を使用した庭園として名高いものとして挙げられますが、京都でここまで青石を多用する庭園は他に無いのではないでしょうか。

細かなところを見ていくと、まずは庭の真ん中に大きな平たい石が置かれていることに気が付きます。
これはこの邸宅が吉田神社の神官のものだった時代、吉田神社を礼拝するために設置されたもので、江戸時代当時から残っているものなのだそうです。

次に気になるのが舟石の配置です。
禅宗寺院で多く見られる枯山水には様々なモチーフが隠されていますが、代表的なモチーフのひとつとして「仙人の住む世界」が挙げられます。

表されているのは海の向こう、仙人が住む遥かな島々が見えるという風景で、白砂で海を、大きな石で島を表すほか、庭の中でも手前の鑑賞者側に寝そべるように大石を置き、庭の風景に安定感を与えながら、“舟石”として島々に向かう船を表す様子も見られます。

重森三玲庭園美術館も同様で、仙人の住む島と海、そして庭の手前には舟石が見られますが、注目すべき点はこの庭には島へ“向かう船”と“戻ってきた船”のどちらもが石で表されている点でしょう。

文章で説明するのは難しいので、ぜひご自身で足を運んでご覧になってください。

⒋おわりに

重森三玲庭園美術館 茶室
©岩本まさき

ここまで重森三玲庭園美術館について話してきました。
お庭の鑑賞には事前予約が必要ですが、重森三玲氏の庭園のエッセンスを凝縮したような見どころのある庭園で、お庭の好きな方はぜひ訪れてほしい庭園です。

文中では取り上げませんでしたが、重森三玲氏の建てた茶室も魅力的で、障子紙や照明などに重森三玲氏らしいモダンな意匠を感じることができます。

京都には重森三玲氏による庭園が数多くあるため、それらとセットで訪れて違いを楽しんでみるのも楽しいのではないでしょうか。

名称重森三玲庭園美術館
住所〒606-8312
京都府京都市左京区吉田上大路町34
電話番号075-761-8776
営業時間完全予約制(月曜休館、水木曜不定休)
主なアクセス方法京都市バス「京大正門前」から徒歩7分
各線出町柳駅から徒歩20分
関連するサイトhttps://garden-reservation.amebaownd.com/
岩本まさき

岩本まさき

1993年兵庫県西宮市生まれ。奈良大学文学部地理学科卒業後、営業職を中心に勤務。
2022年に旅行会社へ転職後は、ツアーへの添乗や旅行系のライターとして務め、個人・少人数向けツアーも多数企画しています。
お仕事のご依頼はお問い合わせからお願いします。

FOLLOW

カテゴリー:
関連記事