紫式部公園を訪れる(福井県越前市)

3 min

1.紫式部公園とは

紫式部公園‐州浜
©岩本まさき

この記事で紹介する紫式部公園は、福井平野の南部のまち、越前市にある公園です。

越前市は2015年に武生市と今立町が合併したことで誕生した比較的新しい市で、紫式部公園は旧武生市の市制35周年を記念して作庭されています。

旧武生市はかつてこの地域にあった令制国、越前国の国府のあった場所にあたり、平安時代にはこの地域に国司として藤原為時が赴任、父に従って幼少の紫式部も生涯でただ一度、京都を離れて少女時代の1年半を過ごしました。

この公園はそうした紫式部が過ごした時代の住宅様式と、紫式部が記した源氏物語の世界に出てくる舟遊びのできる庭園(=寝殿造庭園)を忠実に再現しており、「全国で唯一の寝殿造庭園」として知られています。

庭園を監修したのは日本庭園の研究者、作庭家として知られる森蘊(もり おさむ)氏で、氏は紫式部公園のほかにも奈良県奈良市の『旧大乗院庭園』などを忠実な時代考証の元で作庭当時の姿に復元しているほか、同じく奈良市の『法華寺庭園』など古風な作庭を自ら手がけたことでも知られています。

紫式部公園も忠実な時代考証の元で作庭されている庭園で、州浜や荒磯を伴う泉池や、泉池に流れ込む遣水、中島に向かって掛かる反り橋と平橋などには平安時代の庭園の雰囲気を色濃く感じることができます。

紫式部像
©岩本まさき

公園の北端部には文化勲章受賞者の圓鍔勝三(えんつばかつぞう)氏が製作した紫式部像が京都の方角を向いて立っているほか、公園の隣には『紫式部と国府資料館 紫ゆかりの館』があり、源氏物語を書くまでの紫式部の心模様を几帳風グラフィック等の展示で辿ることができます。

今年令和6(2024)年は大河ドラマ『光る君へ』が放映されており、紫式部公園と紫ゆかりの館への注目が高まっています。

2.庭園を歩いて

紫式部公園釣殿
©岩本まさき

私が紫式部公園を訪れたのは、大河ドラマの劇中では紫式部が越前の地を離れようかという、2024年6月末の平日でした。

平日の夕暮れも近づく時間帯の訪問であったからか、予想していたほどの人気はなく、園内には自分以外には3、4組がいらっしゃる程度でゆったりと庭園を楽しむことができました。

公園の東側から公園敷地へ入ると、まず目の前には釣殿を再現した建物が池に面して建っています。

そこから池に沿って左回りに歩いていくと、石を敷き詰めた州浜の向こうに朱色の橋を伴った中島と池中の立石が見えてきます。

紫式部公園中島
©岩本まさき

こうした景色は後に生まれる様々な日本庭園との共通点を感じさせるもので、寝殿造庭園の時点で日本庭園には浄土的な思想や神仙の住まう風景を作り出そうとする考えがあったのだと感じさせます。

紫式部公園はこうした平安時代当時の細かなディティールを細かく観察できる点が素晴らしいのですが、自分としてはそうした庭園に背後の山々を巧みに借景に取り入れている点に何よりも感動しました。

公園の周囲はほぼ住宅地に囲まれているにも関わらず、周囲の樹木によってそれを感じさせず、それでいて公園の三方にある山々の全てを借景としており、雄大な雰囲気を感じる庭園となっています。

紫式部公園‐中島と日野山
©岩本まさき

池に沿って歩き、中島を越えて対岸に至っても景色の素晴らしさは変わりません。こちらでは紫式部の像が京都の方角を望んでいますが、その視線の先には越前富士ともいわれる日野山が聳えており、こちらも借景に取り入れているのには感嘆します。

3.庭園の見どころ

紫式部公園‐釣殿と几帳台
©岩本まさき

紫式部公園の見どころとしては、やはり平安時代の庭園をその目で確認できる点が挙げられます。
寝殿造庭園としては京都市の『神泉苑』なども一例として取り上げられますが、あちらは一部に当時の寝殿造庭園の様式が残っているもののため、一目で寝殿造庭園がどういったものなのかを知れるという点においては紫式部公園に軍配が上がるのではないでしょうか。

寝殿造庭園は池に船を浮かべて遊んだり、遣水で曲水の宴をしたり、釣殿で月見をしたりする貴族たちの遊興の場であり、さらに屋敷前の広庭を使い神事や祭礼を行うなど多目的な利用がされる空間でした。
紫式部公園においても遣水や釣殿が再現されているため、平安貴族の優雅な生活の一部を想像することができます。

紫式部公園‐遣水
©岩本まさき

また紫式部公園を歩いていると、州浜や池の中の立石や、築島やそこにかかる橋など、その後の日本庭園の根幹となる様々な要素が既に寝殿造庭園では高いレベルで取り込まれているのがわかります。

平安時代には美しく庭園を造るための庭園書『作庭記』が書かれており、庭園を造る方法や庭園にどういった構造を設けるのか、植栽をどうするのかといった技術や理論が既に整理されています。この時代の貴族の邸宅の多くで、共通した日本庭園に対する理論や美学が醸成されていったと考えると面白いものがあります。

寝殿造庭園の時代に醸成された庭園に対する考え方は、この後に生まれてくる浄土式庭園や、近世の大名庭園にもしっかりと受け継がれており、寝殿造庭園の時代とは日本庭園がどういったものなのかがしっかりと形を持って表れてくる時代なのではないかと私は考えています。

⒋おわりに

紫式部公園‐日野山
©岩本まさき

ここまで紫式部公園について話してきました。

紫式部ゆかりの地にある、紫式部の見た風景を再現した庭園ということで、庭園にあまり興味がない人にも一度は訪れ、平安時代の庭の雰囲気を味わってみてもらいたい庭園でした。

実際に庭園を歩いた際の感想でも述べていますが、庭園の中から周囲の山を見た際の風景が美しく、紫式部も見たであろう風景を自分自身で追体験できるのは素晴らしい点です。

公園に隣接する紫ゆかりの館とセットで訪れ、ぜひあなたも紫式部が見て、感じたことを追体験してみてください。

名称紫式部公園
住所〒915-0847
福井県越前市東千福町20-369
電話番号0778-22-3012(越前市 建設部 都市計画課)
営業時間24時間(紫ゆかりの館は9:00-17:00、月曜休館)
主なアクセス方法ハピラインふくい武生駅よりバス運行あり
北陸道「武生IC」から約7km
関連するサイトhttps://www.fuku-e.com/spot/detail_1444.html
岩本まさき

岩本まさき

1993年兵庫県西宮市生まれ。奈良大学文学部地理学科卒業後、営業職を中心に勤務。
2022年に旅行会社へ転職後は、ツアーへの添乗や旅行系のライターとして務め、個人・少人数向けツアーも多数企画しています。
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