識名園を訪れる(沖縄県那覇市)

3 min

1.識名園とは

識名園
©岩本まさき

この記事では沖縄県の県庁所在地、那覇市の高台にある庭園、識名園を紹介します。
識名園は18世紀の終わり頃に造営された琉球王家最大の別邸で、国王一家の保養や、外国使節の接待などに用いられました。

琉球王家の別邸は識名園の他に、17世紀の後半に首里城から東方向の崎山に築かれた東苑・御茶屋御殿(ウチャヤウドゥン)があり、そこと区別するため、首里城の南にある識名園は「南苑」とも呼ばれました。

識名園の敷地は、池を中心とした『池泉回遊式庭園』と、それを望む御殿から成っています。
池泉回遊式庭園の様式は、同時代近世の日本本土で多く見られたもので、大名庭園のほとんどが同様の様式を取っています。

一方の識名園は、池泉回遊式の庭園様式を取りながら、心字池に浮かぶ小島には中国風の東屋を設けているほか、琉球石灰岩を用いたアーチ橋や護岸石組や船揚げ場などが見られ、中国と日本の間で栄えた琉球独自の文化を感じることができます。

六角堂(東屋)
©岩本まさき

また、高台にある庭園の端には琉球の国土を見渡す「観耕台」がありますが、ここからの景色は印象的なもので、四方を海に囲まれた島でありながら海が視界に入りません。
一説には識名園を訪れた中国の使者にこの場所から琉球の景色を見せることで、琉球の国土の広さをアピールしたともいわれ、そうした外交の場としての工夫を随所に見ることができるのも識名園の面白い点です。

2.庭園を歩いて

私が識名園を訪れたのは、2024年8月下旬の平日夕方のことでした。
識名園は世界文化遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」の構成資産に登録されており、海外からの旅行者も多いのではと思っていましたが、園内には2組ほどの観光客がいるばかりで静かに庭園を楽しむことができました。

庭園は那覇市から南の方角、南風原町との市境にも近い場所に立地しており、観光客で賑わう国際通りなどからはバスで30分弱の距離があるのも理由の1つかもしれません。

識名園には王家の人々が使用した「正門」と、「通用門」が設けられていますが、観光客は通用門より入園します。

識名園園路
©岩本まさき

庭園に入り最初に驚いたのは、池のほとりに出るまでに鬱蒼とした森の中を歩くことです。
アコウやデイゴ、ガジュマルなどの緑の濃い樹木の生い茂る眺望のきかない中、琉球石灰岩の園路は右へ左へ逸れながら池の方向へと下っていきます。
こうした園路のカーブには、庭園へ向けての期待を高める効果と共に、ヤナムン(嫌いなもの)やマジムン(蟲もの)と呼ばれる邪悪なものが、屋敷内に侵入することを防ぐ効果があるといいます。

そうして森を抜けて周囲が明るくなっても、目の前は擁壁に遮られ、庭園の全景は望めません。
この擁壁近くには石組みの美しい井戸「育徳泉」が湧き出しており、この擁壁も庭園を見せる前に、石組みの技法や美しさを楽しませる工夫なのではと感じさせます。

識名園擁壁
©岩本まさき

そうして焦らされながら擁壁を抜けると、御殿の奥に中嶋や石橋を伴った池の広がる庭園が眼前に広がります。
この庭園で感動したポイントはいくつかありますが、庭園に足を踏み入れてからしばらく暗い場所を歩き、そこから一気に明るい場所で美しい庭園を見せるという対比の美しさには一番の衝撃を受けました。

3.庭園の見どころ

石橋
©岩本まさき

識名園の見どころとしては、中国的な雰囲気と琉球の風土があわさった池泉回遊式庭園を楽しめる点が挙げられます。

識名園をイメージする場所としては池を跨ぐ2基の石橋が挙げられますが、そのデザインは中国風ですし、中島にある六角堂も琉球赤瓦をわざわざ黒く塗り、中国的な趣きを醸し出しています。
一方で庭園に至る園路や、池の護岸石組などには琉球石灰岩が用いられているほか、御殿(ウドゥン)も琉球独自の格式を感じさせるものとなっています。

しかし、庭園の様式は日本で流行した池泉回遊式のものであり、こうした東アジア地域の様々な文化が入り混じった庭園を楽しめることは識名園ならではのものです。

⒋おわりに

識名園観耕台
©岩本まさき

ここまで識名園について話してきました。

世界文化遺産に登録されている庭園であるものの、訪れる人はあまり多くないようで観光先としても穴場的な魅力が感じられる庭園でした。

園内には亜熱帯の木々や花が植わっており、庭園の知識が無くても歩いているだけで楽しめる庭園となっています。
常夏の沖縄にあって、四季の移ろいを楽しめるように気配りがされた識名園。那覇を訪れた際にはぜひ足を伸ばしてみてください。

名称識名園(しきなえん)
住所〒902-0072
沖縄県那覇市真地421-7
電話番号098-855-5936
営業時間4月1日~9月30日 午前9時~午後6時
(入場締め切り 午後5時30分)
10月1日~3月31日 午前9時~午後5時30
(入場締め切り 午後5時)
水曜日定休
入園料一般:400円
主なアクセス方法識名園前バス停下車
https://daiichibus.co.jp/
関連するサイトhttps://www.city.naha.okinawa.jp/kankou/bunkazai/shikinaen.html
岩本まさき

岩本まさき

1993年兵庫県西宮市生まれ。奈良大学文学部地理学科卒業後、営業職を中心に勤務。
2022年に旅行会社へ転職後は、ツアーへの添乗や旅行系のライターとして務め、個人・少人数向けツアーも多数企画しています。
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