信濃国一宮、諏訪四社を巡拝するコース(長野県茅野市・諏訪市・下諏訪町)

6 min

1.はじめにーモデルコースの概要ー

諏訪大社上社前宮社殿
©廣畑智巳

この記事では長野県中部、諏訪湖のほとりにある茅野市、諏訪市、下諏訪町のおススメスポットをモデルコース形式で紹介しています。
そのままのスケジュールで周ってみるのも良いですし、長野県内の他の都市や山梨県にもアクセスしやすい立地を活かし、松本平方面や甲州、佐久平方面の観光地とセットで訪れるのも良いかと思います。

今回のモデルコースでは、諏訪湖畔の名所を車で周遊します。諏訪湖畔の地域ではJRバスやアルピコ交通、各市町が運行するコミュニティバスが運行されているほか、レンタサイクルでの諏訪湖一周、タクシー移動なども可能です。
しかし、バスを利用すると市町域を跨いだ移動に難点があるほか、レンタサイクルでの移動はどうしても距離が長くなるため、今回は自動車を使う想定で考えてみました。

今回訪れる茅野市、諏訪市、下諏訪町には諏訪大社の4社がそれぞれ鎮座しています。
(茅野市:諏訪大社上社前宮、諏訪市:諏訪大社上社本宮、下諏訪町:諏訪大社下社春宮、秋宮)
諏訪大社は創建の詳細な時期は不明ながら、「日本最古の神社」とされるなど歴史のある神社です。特徴的なのはその祭祀で、毎年春に行われ、神前に鹿の首などを捧げる「御頭祭(おんとうさい)」や、7年に1度、諏訪大社各社殿の4隅に柱を建てる「御柱祭(おんばしらさい)」などの祭祀からは、神道のルーツや縄文的な文化の名残を感じることができます。

今回のモデルコースはこうした神秘的な諏訪大社の4社と、それらの摂社、付近の資料館などを周遊します。
諏訪大社の4社では「四社まいり」がおススメされており、周りきった方には記念品(落雁や小銭入れなど。時期により変更があります。)がありますので、ぜひ4社全てを参拝してみましょう。

2.モデルコース

ルート:JR茅野駅→諏訪大社上社前宮→神長官 守矢史料館→諏訪大社上社本宮→八劔神社→片倉館→諏訪大社下社秋宮→諏訪大社下社春宮
交通手段:自動車
所要時間:6時間~

10:00 JR茅野駅

茅野駅

今回のモデルコースはJRの茅野駅から出発します。
茅野駅には首都圏から長野県の松本駅・南小谷駅間を結ぶ「特急あずさ」の全列車が停車するほか、新宿などからの高速バスがアクセスしています。
中京・関西エリアからは塩尻駅まで特急列車や高速バスでアクセスし、JR中央東線で5駅移動すると到着できます。

茅野をはじめとする諏訪地域には中央自動車道が通っているため、自動車であれば長野県下はもちろん、首都圏・北陸・中京エリアからそれぞれ2時間半程度でアクセスすることができます。

名称茅野駅
住所〒391-0001
長野県茅野市塚原1丁目
関連するサイトhttps://www.jreast.co.jp/estation/stations/988.html

↓車で10分程度

10:10 諏訪大社上社前宮(かみしゃ まえみや)

©廣畑智巳

最初に訪れるのは諏訪信仰の発祥地とも伝えられている諏訪大社上社前宮です。
元々この地は明治維新まで諏訪大社の神職の代表であった「大祝(おおほうり)」が拠点としていた場所にあたります。
代々諏訪家の当主が継承してきた大祝職は諏訪大社の神と同一視、現人神として崇敬を受けてきた歴史を持っており、大祝の住む屋敷は「神殿(ごうどの)」、屋敷のあった当社周辺は「神原(ごうはら)」と呼称されていました。

大祝は中世末期まで、諏訪の領主と諏訪大社の祭祀の取りまとめを兼任しており、上社には今もそうした祭政一致時代の遺構や祭礼が多く残されています。
現在においても「御頭祭」など、本宮ではなく前宮で行われる祭礼も多く、古くからの諏訪大社の伝統が息づく神社であることが感じられます。

高台にある前宮境内には、山の上から「水眼(すいが)の清流」と呼ばれる小川が流れており、静かな雰囲気が漂っています。
また、上社前宮は諏訪大社四社の中で唯一、社殿四方に立つ御柱全てを直接確認することができる神社でもあります。

名称諏訪大社上社前宮
住所〒391-0013
長野県茅野市宮川2030
電話番号0266-72-1606
参拝時間9:00-16:30
参拝料無料
関連するサイトhttps://suwataisha.or.jp/

↓車で5分程度

10:40 神長官 守矢史料館

©廣畑智巳

諏訪大社の中で、現人神である大祝に代わって実質的に祭祀を取り仕切った「神長官(じんちょうかん)」守矢氏に伝わる資料や、中世の諏訪大社の祭礼の様子を知ることができる資料館です。

諏訪大社の祭神である建御名方神(タケミナカタ)は、出雲での国譲りの際に、父大国主命らが国譲りに賛成する中で一人反発した神として神話上に描かれています。
建御名方神は国譲りを迫る武御雷神(タケミカヅチ)に勝負を挑むも敗北、出雲から諏訪まで逃れ、諏訪から出ないことを条件に助命されたと伝わっています。

一方で神長官守矢家には異なる神話が伝わっており、諏訪の地はもともと洩矢神(モレヤ)が治めていましたが、そこに建御名方神が侵略、洩矢神との戦いを制して諏訪大社の祭神となったといわれています。
諏訪大社の祭祀を取り仕切った神長官守矢氏は、この洩矢神の子孫であるとされており、祭祀の事務全般を取り仕切ったほか、ミシャグジ神など諏訪の古い神々を扱うことができる唯一の存在として、祭祀の中心的な存在でもありました。

資料館内には神長官が周辺の大名らとやり取りをした書状が多く残されており、特に武田信玄とのやり取りからは戦国時代の長野県・山梨県の情勢や文化を細かく読み取ることができます。
また、ロビーには江戸時代の「御頭祭」を再現した展示がされており、鹿の頭のほか様々な動物が神前に献上された、当時の特異な祭祀の様子を感じることができます。

名称神長官 守矢史料館
住所〒391-0013
長野県茅野市宮川389-1
電話番号0266-73-7567
営業時間9:00-16:30
月曜日定休
入館料大人:100円
関連するサイトhttps://www.city.chino.lg.jp/soshiki/bunkazai/1639.html

↓車で5分程度

11:10 諏訪大社上社本宮(かみしゃ ほんみや)

諏訪大社上社本宮
©岩本まさき

上社前宮や神長官守矢資料館から北西、諏訪湖の方向に5分ほど車を走らせると、諏訪大社上社本宮に到着します。
本宮は諏訪大社上社の本社で、明治時代までは前宮も本宮の摂社という扱いでした。

広い境内には諏訪大社四社の中でも特に多くの建造物が残されているのが特徴で、 拝殿の後ろに幣殿が、そして左右に片拝殿が続く諏訪造の神殿配置や、神体山である守屋山に向かって立つ勅願殿、東西2殿が並び、御柱祭の年ごとに交互に建て替えられる宝殿、大祝のみが渡ることができた布橋など、数多くの見どころがあります。

下社二社と比べると、上社の神事は狩猟的な要素を多く残していることが特徴です。
毎年正月に行われ冬眠している蛙を捕らえ、小弓と矢で射貫いて神前に捧げる「蛙狩り神事(かわずがりしんじ)」や、春に行われ、神前に鹿の頭を奉納する「御頭祭(おんとうさい)、狩猟神事をルーツとする「御射山祭(みさやまさい)」などの祭礼が今も残されています。

上社の社務所には御朱印のほかに、日本で諏訪大社でしかお受けできない「鹿食免(かじきめん)」と呼ばれる動物の肉を食べることを神様に許される許可証があり、料理関係者や猟師の方を中心にお受けされる姿が見られます。

名称諏訪大社上社本宮
住所〒392-0015
長野県諏訪市中洲 宮山1
電話番号0266-52-1919
参拝時間8:30-17:00
参拝料無料
関連するサイトhttps://suwataisha.or.jp/

↓車で10分程度(上社本宮前の売店や、道中の諏訪市街などで昼食を取りましょう。)

13:00 八剱神社(やつるぎじんじゃ)

八剱神社

諏訪市の畑地・住宅地の中に鎮座する、諏訪大社上社摂社の小さな神社です。
この神社は冬季諏訪湖に張った氷が膨張、湖面上にせり出す「御神渡り(おみわたり)」現象を拝観する、「御渡神事(みわたりしんじ)」の神社として知られています。

諏訪湖の上に氷の亀裂が走る御神渡りは、諏訪大社上社の男神が下社の女神に会うために湖面を渡ったあととされており、祭礼では亀裂の入り方などからその年の天候や豊作や世相などが占われます。

御神渡りの観測は室町時代中期の嘉吉3(1443)年以来、約580年間続けられています。観測開始から昭和時代の末、昭和61(1986)年までの534年間では御神渡りは90%以上の確率で発生していましたが、近年では発生確率は25%を下回るまでに急低下、最後に確認されたのは平成30(2018)年のことです。

名称八剱神社
住所〒392-0016
長野県諏訪市豊田118

↓車で10分程度

13:30 片倉館

片倉館
©岩本まさき

諏訪大社巡拝の途中ですが、ここで公衆浴場に立ち寄ります。
片倉館は昭和初期建築、重要文化財の公衆浴場で、「入浴できる重要文化財」として知られています。
諏訪湖畔に聳える尖塔を伴った目を引く外観と、ステンドクラスや彫刻のある浴室が印象的で、浴室にある幅4m、長さ7mの大浴槽はその大きさから「千人風呂」とも呼ばれます。

映画「テルマエ・ロマエ2」のロケ地に採用されたほか、アニメ「ゆるキャン△」のエンディングで主人公が浸かっていたことでも知られており、地元の方はもちろん遠方からも多くの人が訪れています。

名称片倉館
住所〒392-0027
長野県諏訪市湖岸通り4丁目1-9
電話番号0266-52-0604
営業時間10:00-20:00
火曜日定休
入浴料大人:850円
関連するサイトhttp://www.katakurakan.or.jp/index.php

↓車で10分程度

14:40 諏訪大社下社秋宮

諏訪大社下社秋宮
©岩本まさき

片倉館から10分ほど車を走らせると、下諏訪町にある諏訪大社下社秋宮に到着します。
下社二社は上社二社とは異なり、秋宮と春宮の地位は同格であることが特徴です。8月から翌年1月までは秋宮に、2月から7月までは春宮にご神霊が鎮座しています。

下社秋宮は大きな神楽殿と、彫刻の細かな本殿が特徴的です。
特に大注連縄が特徴的な神楽殿は、諏訪大社をイメージする建物のひとつとして広く知られています。

上社と比べると下社の祭礼には失われてしまったものが多いのが残念ですが、毎年1月14日の夜に行われる「筒粥神事」と春と秋に行われる「遷座祭」が下社の代表的な祭礼として挙げられます。
「筒粥神事」は白米と小豆を葦と共に徹夜で煮、翌朝葦の中に入っている粥の分量によってその年の吉凶や豊作を占うものです。
令和6(2024)年始の占いでは多くの作物が「上」との結果が出ており、多くの作物が豊かに実る年となるのではとされています。

「遷座祭」は春の農事開始前と秋の収穫前にご神霊を春宮と秋宮に御遷座する祭礼で、理由ははっきりとしないものの、農業に関係する信仰から発生したものではないかといわれています。

名称諏訪大社下社秋宮
住所〒393-0052
長野県 諏訪郡下諏訪町5828
電話番号0266-27-8035
参拝時間8:30-17:00
参拝料無料
関連するサイトhttps://suwataisha.or.jp/

↓車で5分程度

15:15 諏訪大社下社春宮

©廣畑智巳

諏訪大社下社春宮は下諏訪町の北東部に位置しています。
春宮の弊拝殿は秋宮のものと瓜二つの建物となっており、これは江戸時代のほぼ同時期、同じ図面を元に再建がされたからであり、秋宮春宮をそれぞれ別の流派が担当、技を競い合ったことが伝わっています。
社地の傍らには砥川が流れており、下社の信仰はこの砥川の水神への信仰から始まった、との説も見られます。

社殿の前から諏訪湖方向へ800m、真っすぐに伸びている参道が特徴的で、かつてはこの参道を馬場に下社大祝である金刺氏をはじめとする武士達が流鏑馬の技を競い合いました。

万治の石仏
©廣畑智巳

境内から砥川を渡った場所には、岡本太郎が絶賛した「万治の石仏」が鎮座しており、巨岩に彫刻された身体に小さな頭が乗ったユーモラスな姿で知られています。
石仏は春宮の石鳥居と同時期に造られており、元々は石鳥居の石材に用いられる予定でしたが、石工がノミを入れたところ石から血が流れだしたために彫刻を中断、霊を納めるために石仏を刻んだとの逸話が伝わっています。

名称諏訪大社下社春宮
住所〒393-0092
長野県諏訪郡下諏訪町大門193
電話番号0266-27-8316
参拝時間8:30-16:30
参拝料無料
関連するサイトhttps://suwataisha.or.jp/

16:00 諏訪大社下社春宮

3.おわりにーコースの注目ポイントー

諏訪湖
©岩本まさき

ここまでモデルケース形式で諏訪地域のおすすめスポットをご紹介しました。
今回は諏訪大社の巡拝に重点を置き、茅野市から諏訪市、下諏訪町にかけての名所を周りましたが、諏訪湖畔のこの地域には記事内で紹介できなかった多くの名所がまだまだあります。
諏訪神社に関する神社では、岡谷市にある藤島神社や洩矢神社は諏訪神話にゆかりの神社として知られているほか、諏訪市内の手長神社・足長神社も付近の鎮守として信仰を受けてきた歴史があります。

また、茅野市には国宝の土偶2体が見つかった尖石遺跡と尖石縄文考古館があり、諏訪地域一帯が縄文時代から開かれた場所であったことを感じることができます。

また、諏訪湖一帯には酒蔵が多くあり、飲食店では名物の蕎麦や諏訪みそ天丼などを食べながら日本酒の飲み比べを楽しめる店舗もみられます。
夏には花火打ち上げ数が国内最大の諏訪湖祭湖上花火大会も開催されるので、時期を合わせた訪問も良いでしょう。

岩本まさき

岩本まさき

1993年兵庫県西宮市生まれ。奈良大学文学部地理学科卒業後、営業職を中心に勤務。
2022年に旅行会社へ転職後は、ツアーへの添乗や旅行系のライターとして務め、個人・少人数向けツアーも多数企画しています。
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