東光山 岡寺を参拝する(奈良県明日香村)

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1.はじめにー岡寺の概要ー

岡寺 門
©岩本まさき

この記事では奈良県中部、明日香村にある「東光山 岡寺(とうこうざん おかでら)」について紹介します。
境内の見どころはもちろん、お寺の由来と歴史についても解説します。

岡寺は奈良盆地の南端、明日香村に位置するお寺です。
「日本人の心のふるさと」などとも呼ばれる明日香村では、岡寺のほかにも古代の史跡や古墳が多く残されており、観光的な見どころの多い地域として知られています。

飛鳥宮跡

岡寺の周辺地域も風致的に優れた場所で、門前から遠くない場所には『飛鳥岡本宮(あすかおかもとのみや)』など、多くの宮が置かれてきた歴史を持つ『飛鳥宮跡』があります。
岡寺の境内地自体も、元々は飛鳥時代の皇子『草壁皇子(くさかべのみこ)』の宮、岡宮(おかみや)のあった場所と伝わっており、周囲はかつて日本の中心の一等地でした。
現在伝わる「岡寺」という名称はこの岡宮に由来するものとされています。

岡寺は創建時には「龍蓋寺(りゅうがいじ)」という名で知られており、この名称は創建した僧『義淵(ぎえん)』が寺の周囲を荒らす悪龍を、境内の池に封じたことに由来するとされています。
この伝説から岡寺は悪龍封じの寺、厄除けの寺として信仰されるようになり、多くの参拝者を集めてきました。

2.由来と歴史

この章では岡寺の由来と歴史について、お寺に伝わる話(縁起)を中心に説明していきます。

岡寺の創建は7世紀の後半、天智天皇の勅願によって同時代の僧侶である義淵が創建したとお寺に伝わっています。
義淵は伝説の多い僧侶として知られており、先述した悪龍退治伝説の他にも、平安時代に成立した『扶桑略記』や『東大寺要録』などには、義淵にまつわる伝説として下記のものが伝わっています。

長らく子を授からなかった夫婦が長年観音菩薩に祈願していたところ、柴垣の上から赤ん坊の泣き声が聞こえ、その子が香気に満ちていたことから、観音菩薩からの授かり子と思った。
これを耳にした天智天皇はこの赤ん坊を引き取ると、草壁皇子と共に岡宮で養育され、後に剃髪して義淵と名乗ったというものです。

岡寺 本堂
©岩本まさき

義淵は出家後に頭角を表し、岡寺の他に4ヶ寺を創建したと伝わるほか、文武天皇3(699)年には学業の褒賞として稲一万束を賜ったとされています。そして大宝3(703)年には僧正に任じられるなど、当時の朝廷と強いつながりを持っていたことが伺えます。

義淵の門下からは大仏建立に尽力した玄昉や、民間に仏教布教を行った行基、東大寺を開山した良弁(ろうべん)など、奈良時代の名僧達を輩出したという話も鎌倉時代の仏教書に見られます。
特に良弁は赤子の時に鷲に攫われていたのを義淵によって発見、養育されたとの説話が残されています。

このように義淵にまつわる伝説は様々な寺院に様々な形で伝わっており、伝説の中には似たものが異なる寺院に伝わっている例もあります。
特に1章で解説した悪龍退治伝説は多くの寺院に伝わっており、『諸寺縁起集』内の薬師寺縁起では、草壁皇子のライバルで、皇位継承にまつわる宮廷闘争の中で命を落とした大津皇子(おおつのみこ)が死後悪龍となり、皇子の師であった義淵が祈祷によって鎮めたという話も伝わります。

大津皇子の死後、義淵と共に育った草壁皇子の皇位継承は確実なものとなりましたが、その草壁皇子も27歳の若さで病を得て亡くなってしまい、次の皇位には草壁皇子の母である鸕野讚良皇女(うののさららのひめみこ)が就いています。

岡寺 六地蔵
©岩本まさき

義淵が岡寺を創建したと伝わるのは、こうした宮廷の動揺の時期に当たります。かつて共に過ごした皇子たちが宮廷闘争に巻き込まれ、亡くなっていくことを義淵はどのように感じていたのでしょうか。
かつて自身と草壁皇子が過ごした宮の跡に寺を建立したことからは、皇子たちへの鎮魂の思いがあったようにも感じられます。

義淵の悪龍退治伝説はその後広まり、鎌倉時代の『水鏡』には岡寺への厄除け参りの記述が見られるなど、一般に認知されるものとなっていました。
ほぼ同じ時期には西国三十三所巡礼も成立しており、その札所に岡寺が加えられていることからも、岡寺が幅広い層からの信仰を集めたことが伺えます。

3.境内のみどころ

この章では岡寺の見どころについていくつかご紹介します。

①如意輪観音坐像

岡寺のご本尊である如意輪観音坐像は高さ4.85mの堂々とした像です。
心木に藁を巻いたものの上に粘土などを巻いて作られる塑像製(そぞう)の仏像としては日本最大のものとして知られ、銅像の東大寺毘盧遮那仏や木造の長谷寺十一面観世音菩薩と並び、『日本三大仏』に数えられる場合があります。

寺伝として弘法大師空海がインドと中国、日本の土を混ぜ合わせて造像し、それまでの本尊を胎内仏として納めたとの話も伝わっているほか、『寺門高僧記』には弓削道鏡が願主となって造像されたとの記述も見られます。

西国三十三所札所の寺院には珍しい、常時拝観できるご本尊仏で、像の随所には後世に補修した跡も見られますが、真っすぐに前方を見据え、唇を固く閉じた面相には威厳が感じられます。

②龍蓋池

龍蓋池
©岩本まさき

義淵が悪龍を封じたとの伝説が伝わっている池です。
池の前には義淵が悪龍を封じるシーンを彫ったレリーフがあり、岡寺ではこの絵柄の切り絵朱印を授かることができます。
池には龍を封じた石が確認でき、この石の蓋を揺らすと雨が降るとの逸話も残っています。

4.おわりにー参拝のポイントー

岡寺 花手水

ここまで岡寺について説明しました。
西国三十三所巡礼の札所寺院であり、古都飛鳥にある岡寺には連日多くの参拝客が訪れます。
さらに、ご本尊の如意輪観世音菩薩は厄除けの功徳があると信仰されていることから、「やくよけ法要」が本尊前で修される1~3月には特に多くの賑わいが見られるほか、初夏の時期にはシャクナゲや牡丹の花が見られるお寺としても知られています。

岡寺は花の時期や紅葉の時期の境内を訪れるのも良いですし、夕暮れの時間帯に訪れ、境内の高台部から奈良盆地を挟んで葛城や二上山の方向に陽が沈んでいく様子を見るのもおススメです。

名称東光山 岡寺(とうこうざん おかでら)
住所〒634-0111
奈良県高市郡明日香村岡806
電話番号0744-54-2007
参拝時間8:30~17:00
参拝の所要時間おおよそ30分
主なアクセス方法近鉄橿原神宮前駅東口より奈良交通バス「岡寺前」下車 徒歩約10分
入山料一般:400円
関連サイトhttps://www.okadera3307.com/
岩本まさき

岩本まさき

1993年兵庫県西宮市生まれ。奈良大学文学部地理学科卒業後、営業職を中心に勤務。
2022年に旅行会社へ転職後は、ツアーへの添乗や旅行系のライターとして務め、個人・少人数向けツアーも多数企画しています。
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