「屋久島」の全体像と見どころ(鹿児島県屋久島町)

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1.はじめにー屋久島の魅力と世界遺産の構成範囲ー

屋久島‐白水雲水峡
© K.P.V.B

この記事では、世界自然遺産「屋久島」について取り上げて、世界遺産に認定された理由、観光の見どころについて解説します。

屋久島は1993年に「白神山地」や「姫路城」、「法隆寺地域の仏教建造物」と共に、日本で最初に登録された世界遺産の一つです。

屋久島は鹿児島県の本土から南に60キロほど離れた島で、島内の約20%が世界遺産に登録されています。なお、世界自然遺産は世界文化遺産と異なり、構成資産はなく、範囲で認定されるという特徴があります。

島内は標高差が激しいことで知られており、島内最高峰となる宮之浦岳の標高1,936mから、海岸沿いの低地まで、2,000m近い標高差が見られることから、同じ島の中でも異なる植生が広がっています。中でも標高500m以上の山地に自生し、樹齢1000年を超える杉は「屋久杉」と呼ばれます。他の地域のものとは桁外れの樹齢と、幹回りの太さから高い知名度を誇ります。

2. 屋久島の成り立ちと歴史

屋久島は鹿児島県南部の海上にあります。その特徴を知るには、対照的な地形をしている隣の種子島が良い例となります。種子島の最高地点は282mと比較的低く、平坦な地形が広がっている一方で、屋久島は宮之浦岳をはじめ、島の中心部には高山が連なっています。

屋久島‐宮之浦岳
©Soramido-Yakushima

この違いはそれぞれの島の成り立ちが関係しています。種子島が柔らかい地層が隆起してつくられたのに対し、屋久島はその柔らかい地層に花崗岩(かこうがん)マグマが入り込む形で形成されています。島の中央部から西部にかけての広範な範囲が花崗岩で形成されていることが確認されており、花崗岩の硬い岩盤は屋久島に特徴的な高山地形を形成すると共に、ヤクスギなどの植物が生育する特異な環境を形成する一因となりました。

このような屋久島の原型は約1,500万年前に形成され、その後、今から7,000年前には既に人類が定住していたと考えられています。島内各地からは縄文時代、弥生時代の遺跡も発掘されているほか、西暦607年には中国の歴史書「隋書(ずいしょ)」に登場しています。その頃から屋久島は日本の領土に含まれるようになったと考えられ、その後も遣唐使の寄港地として整備されるなど、人の往来が見られました。

中世に入ると源平の合戦に敗れた平家の落ち武者が、屋久島に移住したと伝えられ、種子島を領有する武士である種子島氏と、大隅半島を領有する武士との間で領有を巡った争いも発生しました。
安土桃山時代に入ると、豊臣秀吉の命令によって屋久島の領有は島津氏のものとなりました。豊臣秀吉は京都に築く大寺院の用材として屋久杉を用いるように島津氏に命じており、後述するウィルソン株はその際に切り出されたとされています。

米作や畑作に不適な屋久島では、江戸時代にも年貢を材木によって納めており、幕末までの時期に屋久杉全体の5~7割が伐採されたとも推定されています。
明治時代以降も国策として屋久島の森林での伐採は進められ、1950年代にはチェーンソーの導入と、高度経済成長期の木材需要の高まりから、さらに伐採のスピードが早まることとなりました。

屋久鹿
© K.P.V.B

現在に繋がる森林保護の動きは1956年に屋久杉原生林が国の特別天然記念物に指定されたことから始まりました。1960年代には森林伐採が大幅に縮小され、1980年代の後半からは森林生態系保護地域が設定されるなど徐々に森林の保護へと舵が切られきた歴史があります。

世界遺産への登録後にも島内のヤクシカの保護管理計画が策定されているほか、エコツーリズムを実施する際の心得やルールをまとめた「屋久島ルール」が作成されるなど、自然環境の保護と地域振興の両立を目指した様々な取り組みがなされています。

3. 世界遺産に登録された理由

シャクナゲと宮之浦岳
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この章では、屋久島がどのように評価されて世界遺産に登録されたのかを紹介します。

該当する評価基準

世界遺産の評価基準は10個あり、世界遺産に認定されるには最低1つ以上の基準を満たす必要があります。屋久島はこれらの基準のうち、下記2つの基準を満たしたことで世界自然遺産に認定されました。

  • ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。(価値基準7)
  • 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。(価値基準9)

ここからはそれぞれの価値基準を満たした理由について説明していきます。

屋久島特有の自然環境と生態系

(該当価値基準7:ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの)

屋久島が世界遺産に登録された理由として、屋久島の特徴的な自然環境と、その環境で育まれた生態系が評価された点があげられます。屋久島は標高2,000m近い山々から沿岸まで勾配が続いています。この地形は山頂付近では寒冷地の植物を育つ一方で、沿岸沿いでは亜熱帯性の植物を育っていて、植物の「垂直分布」とも呼ばれる幅広い植生を目にすることができます。

一例としては屋久島に固有の植物であるヤクシマリンドウ、屋久島を南限とするスギや、北限とするナンテンカズラなどの植物が生育しており、ヤクザルやヤクシカなどの屋久島固有の哺乳類なども生息する、屋久島独自の生態系が維持されています。

他地域で失われつつある温帯地域の原生林

(該当価値基準9:陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの)

屋久島は花崗岩の隆起によってつくられた島であり、多雨環境となっています。そのため、島に分布する杉は岩盤の上に根を張ってゆっくりと成長することとなり、国内の樹木の中でも際立って老齢であるなどの特徴的な形質を有しています。屋久島の杉は抗菌性が強く耐久性もあるとされ、中世以降建築材や造船材として重宝されました。

明治時代以降には島内での伐採が本格化したものの、樹齢1,000年を超えるヤクスギは年輪が歪んでいることも多いことから放置され、結果的に現在まで残されてきました。また、ヤクスギを育む多雨環境は苔類が多く生息する環境を作り出し、これにより広大な原生的な照葉樹の森を形成しています。

4.屋久島の見どころ

ここでは屋久島の観光の見どころについて紹介します。屋久島の世界遺産は、構成資産の全てが鹿児島県の屋久島に位置しています。屋久島の面積は504.29㎢、周囲は130kmとなっており、兵庫県の淡路島よりやや小さい島です。島の形は円形に近い五角形をしていることも特徴です。

屋久島の世界遺産範囲は島の中央部を中心に広がっており、島全体の約20%の広さがあります。世界遺産範囲の大部分は山中にあるため、トレッキングの準備が必要です。

①縄文杉

縄文杉
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屋久島に自生している屋久杉の中でも代表的なもので、最大級の大きさを誇る個体です。背が低いずんぐりした樹形となっており、これは台風がよく通過する地域で育つ屋久杉の特徴をよく表したものと言われています。
また、幹周りの凹凸が激しかったために、他の古木が材木用に伐採されていく中で、残されてきた歴史を持っています。中心部が空洞となっていることから詳細な樹齢は不明ですが、科学的計測値では樹齢2,170年と考えられているほか、7,200年を超えると考える説もあります。

②ウィルソン株

ウィルソン株
©Soramido-Yakushima


豊臣秀吉の命令によって、1590年頃に材木用に切り出された屋久杉の切り株です。
切り株の周囲は13.8mあり、現存していれば縄文杉とほぼ同格、最大級の屋久杉のひとつであったと考えられます。切り株の内部は大きな空洞であり、、内部から空を見上げるとハート型に見えることでも有名です。

切り株の周囲には三本の小杉が育っています。巨木が伐採されたあとに次世代の杉が育つことは「切り株更新」と呼ばれ、世代交代しながら森が受け継がれていく様子を見ることができます。

③ヤクスギランド

ヤクスギランド
©Soramido-Yakushima

島内の標高1,000m付近に広がっている、面積270ヘクタールほどの森林区域です。ヤクスギランドは、林業や自然保護とのバランスを取りながらレクリエーション施設としての活用を目指す自然休養林として整備されており、トレッキング等を楽しむことができます。
エリア内では仏陀杉や母子杉などの巨木のほか、くぐり杉やひげ長老など、ユニークな名を持つ数多くの屋久杉を鑑賞できます。

ヤクスギランドの入口にある売店・休憩施設を兼ねた「森泉(しんせん)」を起点にいくつものハイキングルートが整備されており、時間や体力に合わせた屋久杉の鑑賞が可能です。

「森泉」付近には駐車場が整備されており、麓の町から車を使ってアクセス可能です。

④白谷雲水峡(しらたにうんすいきょう)

白谷雲水峡
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「人と森林のふれあいの場」として、1979年に林野庁によって選定された白谷川流域に広がる自然休養林です。体力に自信がない方でも気軽に樹齢1,000年を超える屋久杉や、豊かな屋久島の原生林を楽しめるスポットとして人気です。

幻想的な森の雰囲気は宮崎駿監督のアニメ映画「もののけ姫」の中に出てくる深い森のモデルともいわれています。また、一面が苔に覆われている風景は幻想的な雰囲気をもたらしているだけでなく、日本蘚苔類学会(にほんせんたいるいがっかい)によって「日本の貴重な苔の森」に制定されており、学術的にも貴重なものとなっています。

⑤千尋の滝(せんぴろのたき)

千尋の滝
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屋久島の標高300mに位置し、落差60mの高さから流れ落ちる屋久島内でも最大級の滝です。滝の左側斜面は250m×300mの巨大な花崗岩の岩盤に面しており、その岩盤の大きさが千尋、千人の人間が手を結んだくらい大きいという例えから「千尋の滝」と名付けられました。

滝の下流側には展望台があり、展望台までのアクセスには自動車を用いることも可能で、体力に不安のある旅行者へもおすすめのスポットです。

⑥平内海中温泉

平内海中温泉

屋久島の南側の沿岸、平内地区の海中から湧き出ている温泉です。1日2回、干潮時の前後約2時間のみ入浴が可能という珍しい温泉です。泉質はリウマチや神経痛、皮膚病などに効果があるといわれています。
昼間は海を、夜は波の音と満天の星空を眺めながらの入浴はとても素晴らしいものですが、周囲には脱衣所の設置は無く、男女混浴となっており、水着や下着での入浴はできないため、注意が必要です。

⑦西部林道

西部林道
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島の西側の地域にある海岸沿いの道路は通称「西部林道」と呼ばれています。約20kmにわたって人家のない道のりが続き、世界自然遺産地域も含んでいて、人の手が加わっていない森林も見られます。
道路沿いはほとんどが照葉樹林で「緑のトンネル」と呼ばれているところもあるほか、沿線はヤクザルやヤクシカの生息域とも重なっており、それらの野生生物を間近に観察することも可能です。一方で西部林道は道幅が狭いため、運転には注意が求められるほか、野生生物へのエサやりが禁じられている点も訪問の際には意識しましょう。

⑧屋久島環境文化村センター

屋久島環境文化村センター
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屋久島の玄関口である宮之浦港から近い場所にある、屋久島の自然や文化に関する総合的な情報の提供・案内・交流を行っている施設です。館内には有料観覧コーナーがあり、迫力ある大型映像の放映やパネル模型などを駆使した展示により、屋久島の自然や文化などに関する情報がわかりやすく紹介されています。
他にも館内には物産コーナーや、喫茶コーナーなどもあり、屋久島観光の拠点として活用すると良いでしょう。

5.おわりにーアクセスする際のポイントー

屋久島‐太鼓岩
©Soramido-Yakushima

ここまで世界遺産である屋久島の歴史や特徴、見どころについて紹介しました。歴史ある屋久杉の大木が最大の見どころですが、旅行者を案内する際は、屋久杉を育んだ屋久島の環境や、そこに生息する野生生物についても紹介すると、旅行者の理解が深まります。
アクセス方法としては、飛行機とフェリーがあります。屋久島空港へは、大阪、福岡、鹿児島からのフライトがあります。一方で、船でのアクセスについては、鹿児島市内の港からフェリーで4時間、高速船で2時間~3時間程度で屋久島の宮之浦港・安房港へとたどり着きます。

岩本まさき

岩本まさき

1993年兵庫県西宮市生まれ。奈良大学文学部地理学科卒業後、営業職を中心に勤務。
2022年に旅行会社へ転職後は、ツアーへの添乗や旅行系のライターとして務め、個人・少人数向けツアーも多数企画しています。
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